経験を価値に変える「帰還」の設計図：ビジネス成果を組織・社会に還元する具体策
ビジネスの現場で、困難を乗り越え、成功を収める経験は、まさにヒーローズジャーニーにおける「冒険」に例えることができるかもしれません。特別な世界での試練を経て、価値ある「宝物」を持って日常世界に「帰還」する。この「帰還フェーズ」は、単に元の場所に戻るだけでなく、冒険で得た学びや成果を活かし、周囲や世界に変革をもたらす重要な局面です。
特にIT部門のリーダーとして長年の経験を積み、数々のプロジェクトを成功に導いてきた方々は、多くの「宝物」――深い技術知識、組織を動かす知見、困難解決のノウハウ、人脈などを蓄積されていることでしょう。これらの貴重な経験や成果を、どのように組織や社会に還元し、自身のリーダーシップをさらに発展させていくか。これが、「帰還と貢献」というテーマが問いかける本質的な課題です。
日々の業務に追われ、新たな貢献活動や自己啓発のための時間を確保するのが難しいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。また、貢献したいという思いはあっても、「具体的に何を、どうすれば良いのか」と迷うこともあるでしょう。
本記事では、ヒーローズジャーニーの「帰還」の概念をヒントに、自身のビジネス経験や成果を組織や社会への「貢献」に変え、リーダーシップ影響力を拡大するための「設計図」を描く具体的なステップをご紹介します。
ヒーローズジャーニー「帰還フェーズ」における「宝物」とは
ヒーローズジャーニーにおいて、主人公は特別な世界での冒険を通じて、人々を救う力や世界を変える知恵といった「宝物」を手に入れます。そして、その「宝物」を持って日常世界に帰還し、そこで人々を助けたり、世界を変革したりします。
ビジネスにおける「帰還フェーズ」も同様に考えることができます。特定のプロジェクトや役職、あるいは会社全体での経験を通じて得られた、個人的な成功体験や失敗からの学び、獲得したスキル、培われた人脈などが、この「宝物」にあたります。
重要なのは、この「宝物」を自分自身の内に留めておくだけでなく、それを活用して周囲やより広い世界に価値を提供することです。これこそが、「帰還」を「貢献」へと昇華させるプロセスです。
なぜ「帰還」した経験を「貢献」に変える必要があるのか
多忙なリーダーにとって、自身の業務範囲を超えて貢献活動を行うことは、時間的・精神的な負担に感じられるかもしれません。しかし、経験を貢献に変えることには、以下のような大きな意義があります。
- 組織全体の成長: 自身の知見やノウハウを共有することで、チームや他部署の課題解決を促進し、組織全体の生産性や技術力向上に貢献できます。個人の成功を組織の資産に変えるということです。
- 後進の育成: 若手メンバーや異動してきた同僚に経験を伝えることは、彼らの成長を加速させ、組織の未来を担う人材育成に繋がります。メンタリングや勉強会開催などがこれにあたります。
- 自身のリーダーシップ影響力拡大: 貢献活動を通じて、自身の専門性や人間的な魅力が社内外に伝わり、より多くの人からの信頼を得て、リーダーシップの影響力を自然な形で広げることができます。
- 社会への還元: 業界全体の発展に繋がる情報発信、社会課題解決に向けたプロジェクトへの参画など、自身のスキルや経験をビジネスの枠を超えて社会に活かすことも可能です。
- 自己成長の促進: 貢献活動は、自身の知識やスキルを再確認・体系化する機会となり、新たな学びや視点を得ることで、さらなる自己成長に繋がります。
これらの意義を理解することは、多忙な中でも貢献活動に取り組むための強力な動機となります。
「貢献の設計図」を描くステップ
では、具体的にどのように自身の経験や成果を貢献へと繋げる「設計図」を描けば良いのでしょうか。以下のステップで考えてみましょう。
ステップ1：経験の棚卸しと「宝物」の特定
まずは、これまでのビジネス経験を振り返り、自身の「宝物」を明確にすることから始めます。
- 成功・失敗体験の振り返り: 大きな成功を収めたプロジェクトや、反対に困難に直面し、そこから立ち直った経験などをリストアップします。それぞれの経験から、具体的にどのような知識、スキル、教訓、人脈を得たかを詳細に書き出します。
- 得意分野・情熱の特定: 自身が情熱を持って取り組める分野や、人からよく相談される得意分野は何でしょうか。技術的な専門性はもちろん、チームマネジメント、課題解決、コミュニケーション、ネゴシエーションなど、幅広い視点で「宝物」を探します。
- 形式知化の試み: 自身の経験やノウハウを、誰にでも理解できる形（ドキュメント、プレゼン資料、話し言葉など）で言語化・構造化することを試みます。これにより、「宝物」が他者へ共有可能な「価値」へと変わります。
ステップ2：貢献対象とゴールの設定
次に、特定した「宝物」を誰に、どのように届けたいのか、貢献の対象と具体的なゴールを設定します。
- 貢献対象の特定:
- 組織内：自身のチーム、他部署、全社、若手社員
- 組織外：業界コミュニティ、学術界、一般社会
- 貢献ゴールの設定:
- 何をもって成功とするか？
- 貢献によってどのような変化をもたらしたいか？（例：社内の技術レベル向上、新人のオンボーディング期間短縮、業界全体の情報流通促進、特定の社会課題に対する意識向上）
- 具体的な成果指標は何か？（例：勉強会参加者数、作成したドキュメントの利用率、外部ブログの閲覧数、プロジェクトの目標達成度）
貢献対象とゴールを明確にすることで、次に考える貢献方法が具体的になり、多忙な中でも焦点を絞って活動できるようになります。
ステップ3：貢献方法の選定と具体化
棚卸しした「宝物」と設定したゴールを結びつける、最も効果的で、かつ自身の状況（特に時間）に合った貢献方法を選び、具体化します。
- 組織内貢献の例:
- 社内勉強会やワークショップの企画・開催
- ナレッジ共有ツールの活用（ドキュメント作成、Q&A対応）
- 後進社員へのOJTやメンタリング
- 部署横断プロジェクトへの参画
- 社内ブログや社内報での知見共有
- 組織外・社会貢献の例:
- 技術ブログや個人ウェブサイトでの情報発信
- 外部カンファレンスやセミナーでの登壇
- オープンソースプロジェクトへの貢献
- 業界団体の活動への参加
- 専門知識を活かしたNPOや社会起業家へのプロボノ支援
多忙な中でも可能な方法を選ぶことが重要です。例えば、 * 隙間時間を活用できるブログ執筆やSNSでの情報発信 * 既存の会議や1on1の時間を活用したメンタリング * 自身の業務と関連するテーマでの社内勉強会開催 * 小さな規模から始めて徐々に広げる といったアプローチが考えられます。完璧を目指さず、まずは実行可能な一歩を見つけることが大切です。
ステップ4：実行計画と継続の仕組み
最後に、選定した貢献方法を実行に移すための計画を立て、継続するための仕組みを考えます。
- 具体的な実行計画:
- いつ（スケジュール、頻度）
- 何を（具体的なタスク）
- どのように行うか（準備、実行手順）
- 誰と協力するか（周囲への依頼、チームメンバーの巻き込み） を明確にします。
- 継続のための仕組み:
- 無理のない範囲でスケジュールに組み込む（例：週に1時間、月に半日など）
- モチベーションを維持するための工夫（例：貢献による変化を記録する、同じ志を持つ仲間と交流する）
- 一人で抱え込まず、チームメンバーや同僚に協力を仰ぐ
- 定期的に計画を見直し、改善する
貢献の実践例：多忙なIT部長のケーススタディ
ある多忙なIT部長Aさんの例を考えます。Aさんは長年培ったプロジェクトマネジメントのノウハウを組織に還元したいと考えていましたが、日々の会議やマネジメント業務に時間を取られていました。
Aさんは「貢献の設計図」を描き、以下のステップで実践しました。
- 宝物の特定: 自身のプロジェクトマネジメントにおける成功・失敗パターン、特に「ステークホルダーとの合意形成」に関する知見が組織にとって価値が高いと特定。
- 貢献対象とゴール: 若手プロジェクトマネージャー層を対象に、合意形成スキルの向上を目指す。ゴールは、彼らがよりスムーズにプロジェクトを推進できるようになること。
- 貢献方法の選定: 大規模な研修は時間が取れないため、既存の週次プロジェクトマネジメントMTGの中で5分間のミニ講座を実施すること、およびFAQ形式のナレッジドキュメントを作成することを選択。
- 実行計画と継続:
- ミニ講座は担当者にローテーションで実施してもらう形式とし、自身は初回と内容チェックを担当。自身が登壇する時間は月1回10分程度に限定。
- ナレッジドキュメントは、過去の経験を基に週末に少しずつ執筆。完成後は社内ツールで共有し、質問には隙間時間で対応。
- 若手PMからの感謝や具体的な成果報告を励みに継続。
このAさんの例のように、最初から大きな成果を目指すのではなく、自身の状況に合わせて実現可能な小さな一歩から始めることが、多忙な中でも貢献を継続する鍵となります。
結論：経験を「貢献」に変え、リーダーシップの物語を紡ぐ
ヒーローズジャーニーの「帰還フェーズ」は、単なる終着点ではなく、得たものを分かち合い、新たな影響力を発揮する始まりです。ビジネスにおけるあなたの経験や成果もまた、組織や社会にとって価値ある「宝物」となり得ます。
自身の経験を棚卸し、貢献の対象とゴールを設定し、具体的な方法を選んで計画を実行する。「貢献の設計図」を描くこのプロセスは、自身のキャリアを俯瞰し、次にどのような価値を生み出していくかを戦略的に考える機会でもあります。
時間がないという課題は多くのリーダーが抱える共通のものです。しかし、貢献活動を自身の業務と切り離された「追加タスク」として捉えるのではなく、自身のリーダーシップを強化し、影響力を広げるための重要な投資と捉えることができれば、取り組み方も変わってくるかもしれません。
まずは、自身の持つ「宝物」の中から一つを選び、小さな一歩から貢献活動を始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、組織や社会への新たな価値提供となり、あなたのリーダーシップの物語をさらに豊かなものにしていくはずです。
「帰還」した経験を「貢献」に変える旅は、あなたのリーダーシップを次のレベルへと引き上げるでしょう。