帰還と貢献

多忙なIT部長のための組織連携強化術:「帰還」した部門横断プロジェクト経験を活かす貢献戦略

Tags: 部門連携, 組織貢献, リーダーシップ, 経験知, 時間管理

多忙を極める日々の業務の中で、自身の豊富な経験や得られた知見を組織や社会に還元したい、リーダーシップの影響力を広げたいと考えるIT部門のリーダーは少なくありません。特に、プロダクト開発部門を率いる部長クラスの方々は、多くのプロジェクト、特に部門を跨いだ連携が必要な難易度の高いプロジェクトを経験されていることでしょう。これらの経験は、まさに「宝」とも言える価値を持っています。

しかし、その貴重な経験をどのように整理し、共有し、組織全体の力に変えていくのか、その具体的な方法や時間を確保することに課題を感じる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、ヒーローズジャーニーにおける「帰還」の概念を援用し、部門横断プロジェクトで得られた経験知を形式知化し、組織内の連携強化という形で「貢献」に繋げる実践的なアプローチをご紹介します。多忙な日常の中でも効率的に取り組めるヒントを提供いたします。

ヒーローズジャーニーにおける「帰還」と部門横断プロジェクト経験

ヒーローズジャーニーとは、主人公が非日常の世界で試練を乗り越え、貴重な「秘宝」や知恵を得て、日常の世界に「帰還」し、その恵みを共同体に還元するという物語の典型的な構造です。これをビジネスに置き換えるならば、部門横断プロジェクトはまさに「非日常の世界」での冒険と言えます。

自部門の常識が通用しない他部門の文化、異なる優先順位、固有の専門用語、コミュニケーションの壁など、多くの「試練」に直面します。これらの試練を乗り越える過程で得られる、部門間の連携における成功要因や失敗パターン、効果的なコミュニケーション方法、ステークホルダー間の合意形成のコツといった知見こそが、ビジネスにおける「秘宝」、『帰還』すべき価値ある経験知なのです。

この経験知を単なる個人的な成功談や反省点で終わらせず、組織全体で活用できる形で「帰還」させることが、リーダーシップの発揮と組織への貢献に繋がります。

「帰還」した経験知を特定し、形式知化する方法

部門横断プロジェクトで得た経験知を組織に還元するためには、まずその経験知を明確に特定し、誰にでも理解できる形(形式知)にすることが重要です。多忙な中で効率的にこれを行うためのステップをご紹介します。

  1. 経験知の「核」を抽出する: プロジェクト完了時や節目ごとに、以下の点を簡潔に振り返ります。

    • 特に難しかった連携の局面はどこか? なぜ難しかったのか?
    • 連携がうまくいった要因は何か? 具体的な行動や判断は?
    • 他部門とのコミュニケーションで気づいた点(文化、慣習、期待値の違いなど)は?
    • プロジェクトを通じて発見した部門間の共通課題やボトルネックは?
    • もし次回同じような連携を行うなら、何を変えるか?
  2. 形式知化の「型」を決める: 抽出した経験知をどのような形式で残すかを事前に決めておきます。これにより、記録の手間を減らし、後から活用しやすくなります。

    • 短い箇条書きやサマリー(週次・月次報告に「今月の部門連携からの学び」という項目を追加)
    • ナレッジベースやWikiのエントリ(特定の連携テーマに関するTIPS集)
    • 簡単なプロセスフロー図やチェックリスト(部門間連携を開始する際の確認事項リスト)
    • 事例集(「〇〇部とのシステム連携事例:成功と失敗から学ぶ」)
  3. 多忙でも継続する「仕組み」:

    • 隙間時間の活用: 会議間の5分、移動中などにスマホのメモ機能やボイスレコーダーで気づきを記録します。
    • テンプレート化: 振り返りやナレッジ登録のテンプレートを用意し、入力負荷を減らします。
    • タスクリストへの組み込み: 振り返りや形式知化を定期的なタスクとしてスケジュールに組み込みます(例:「月末に主要プロジェクトの連携経験を3点記録する」)。
    • 権限委譲や協力: 形式知化の清書や整理をチームメンバーに依頼することも検討します。

このように、経験から得た「秘宝」を意識的に特定し、活用しやすい形式に整える工程が「帰還」の第一歩となります。

組織への「貢献」:連携経験知を組織全体の力に変える

形式知化された部門横断プロジェクトの経験知は、組織内のサイロ化解消や連携強化のための貴重な資産となります。これを組織に「貢献」する方法は多岐にわたります。

  1. 社内での共有会や勉強会: 形式知化した事例や学びを、関係部門や若手リーダー向けに共有します。一方的な説明だけでなく、ワークショップ形式で参加者自身の経験を引き出し、ディスカッションを促すことで、学びが深まり、組織全体の連携意識が高まります。
  2. 部門間連携ガイドラインやプレイブックの作成: 特定の部門間(例: 開発と営業、ITと法務など)の連携が頻繁に発生する場合、これまでの経験に基づいたガイドラインや推奨プロセスを作成します。共通認識を持つことで、手戻りや誤解を防ぎ、連携効率を向上させます。
  3. メンタリングやアドバイス: 部門横断プロジェクトに関わるメンバーや、同様の課題に直面している他部門のリーダーに対し、自身の経験に基づいたメンタリングやアドバイスを行います。個別の状況に応じた具体的な示唆は、非常に価値のある貢献となります。
  4. 既存プロセスの改善提案: 形式知化された経験から、組織全体の意思決定プロセス、情報共有フロー、プロジェクト管理手法などにおける部門間連携のボトルネックが明確になる場合があります。これらの課題に対し、具体的な改善策を提案し、実行を推進します。
  5. 組織文化への働きかけ: 自身の経験を通じて、協力的な文化やオープンなコミュニケーションの重要性を伝え、組織全体に良い影響を与えるように働きかけます。リーダー自身の行動が模範となります。

これらの活動は、単なる知識共有に留まらず、組織全体の学習能力を高め、変化への適応力を向上させることに繋がります。多忙な中でも、週に1時間だけ関連活動に充てる、月次のリーダー会議で一つの事例を共有するといった小さな一歩から始めることができます。

自己啓発とリーダーシップへの繋がり

自身の部門横断プロジェクト経験を「帰還」させ、組織に「貢献」するプロセスは、自身の成長、すなわち自己啓発そのものです。経験を言語化し、他者に伝えることは、自身の思考を整理し、理解を深めます。また、組織全体に影響を与え、変化を促す活動は、リーダーシップを実践的に鍛える機会となります。

このプロセスを通じて、自身の技術的専門性に加え、非技術的なスキル(コミュニケーション、交渉、ファシリテーション、組織変革など)が磨かれ、より多角的で影響力のあるリーダーへと成長していくことができます。

まとめ

IT部門のリーダーが持つ部門横断プロジェクトでの経験は、組織内の連携を強化し、サイロ化を解消するための貴重な「秘宝」です。これを意識的に特定し、形式知化して「帰還」させ、多様な形で組織に「貢献」していくことは、多忙な中でも実現可能な、価値の高い活動です。

ヒーローズジャーニーの主人公が持ち帰った「秘宝」が共同体を豊かにしたように、皆様のビジネスにおける「帰還」と「貢献」の旅路は、組織を、そしてやがては社会をも豊かにしていく力となるでしょう。まずは、直近のプロジェクトから得られた一つの学びを書き出すことから始めてみてはいかがでしょうか。

自身の経験を組織や社会に還元し、リーダーシップの影響力を高める旅路を、ぜひ歩み続けてください。